フィリップ・コトラー教授の書籍『マーケティング4.0 スマートフォン時代の究極法則』(朝日新聞出版)を読みましたので、全体像、概要、ポイントをご紹介します!
- マーケティング4.0の全体像
- コトラーのマーケティング4.0のポイント
- 第1章~第3章: 基本的なトレンドの紹介
- 第4章: デジタル経済におけるマーケティング4.0
- 5章~7章: マーケティングの新しいフレームワーク
- 第8章~第11章: デジタル経済におけるマーケティングの戦術的応用
- むすび:「ワオ!」を生み出すブランドになろう
- まとめ
マーケティング4.0の全体像
まず全体像はこちらです!本当にざっくりですが、私なりに章の構成とポイントをまとめました。
画像は、書籍に使用されていた図をもとにして作成しています。
まず第1章~第3章で、マーケティングの基本的なトレンドについて論じています。
- SNSとFファクター(Friends / Families / Facebook Fans / Twitter Followers)の重要性
- マーケティングにおけるパラドックス
- 主要なセグメントのYWT(若者Youth / 女性 Women / ネティズンNetizen)
そして第4章で、マーケティング4.0のコンセプトを提唱しています。
ここが、マーケティング4.0にて主張したい内容だと、私は理解しています。
続く第5章~第7章では、第4章で提唱したコンセプト「5A」の詳細を論じ、5Aに関連する考え方のO3ゾーン(Own 自分自身 / Other’s 他者 / Outer 外的影響)、マーケティングの生産性の指標としてPAR(購買行動率)とBAR(ブランド推奨率)を掲示しています。
そして第8章~第11章では、5Aコンセプトの各段階において、マーケティングの戦術的応用方法について、実際の企業の例を用いながら説明されます。
最後に、まとめとして、「ワオ!」を生み出すブランドになろう!と呼びかけ、マーケティング4.0を締めくくっています。
コトラーのマーケティング4.0のポイント
書籍を読むと、マーケティング4.0のポイントは第4章で紹介される以下の図に集約されていくことがわかります。
- 横軸の5A(Aware 認知、Appeal 訴求、Ask 調査、Act 行動、Advocate 推奨)フレームワークにおいて、顧客をいかにAware 認知 のレベルからAdvocate 推奨 のレベルへと進ませるか。
- 縦軸の3E(書籍では3Eとは紹介されていませんでしたが、Enjoyment 喜び、Experience 経験、Engagement エンゲージメント)フレームワークにおいて、喜びだけでなく、経験、さらにはエンゲージメントまでを、いかに顧客に提供していくのか。
この、5Aと3Eのフレームワークで、デジタル・マーケティングを推進していくことが、コトラー教授が主張したい内容だと私は理解しています。
ここから、各章の概要を説明します。
第1章~第3章: 基本的なトレンドの紹介
マーケティングの文脈における、基本的なトレンドを紹介している章です。4章の主張へと展開するための背景を説明しています。具体的には、SNSを使いこなす時代、Fファクター(友人や家族からの口コミ、FacebookやTwitterのインフルエンサーによる紹介)の重要性がさらに増している、といった内容です。
Fファクターについては、2020年現在ではFacebookやTwitterだけでなく、Youtube や Instagram も重要なSNSツールとなっていますね。むしろ個人的にはYoutube と Instagram の方が、FacebookやTwitterよりも使っています。(マーケティング4.0の英語版が出版されたのが2016年12月なので、4年の間に変化していますね)
第3章では、主要セグメントとして、若者と女性とネティズン(インターネットを利用するユーザ、ネット民)に焦点を当てており、インフルエンサーとなる可能性が高い彼らを味方につけることの重要性を説いています。
第4章: デジタル経済におけるマーケティング4.0
ここがマーケティング4.0の肝です。先ほども紹介しましたが、第4章で登場する以下の図が最重要だと私は考えています。
(上記の縦軸のEnjoymentですが、書籍では「楽しさ」と日本語訳がされていましたが、私は「喜び」としました。
その理由として、書籍の最後のむすびにおいて「喜び」「経験」「エンゲージメント」の3つの要素の記載があり、「喜び」に関して、「製品の卓越性に重点を置く企業やブランドは、顧客に単に喜びを与える。こうした企業やブランドは、顧客のニーズやウォンツを満たす製品・サービスを開発することに力を集中する」 という文章があります。
このような文脈では「楽しさ」ではなく「喜び」の方が適切だと私は考えています。)
さて、上の図では、伝統的マーケティング(従来型のマーケティングアプローチ)とデジタル・マーケティング(接続されたマーケティングアプローチ)を対比し、5Aと3Eの軸でフレームワークを構成しています。
簡単に言うと、有名なフレームワークのSTP(Segmentation、Targeting、Positioning)と4P(Product、Price、Place、Promotion)ですね。ここから、デジタル・マーケティング(接続されたマーケティングアプローチ)へと変遷していきます。
わかりやすい違いとしては、マーケティングミックスが4Pから4C(Co-Creation 共創、Currency 通貨、Communal activation 共同活性化、Conversation カンバセーション)へと変化しています。(個人的には、4Cは少しわかりにくいな…と感じました。4Pの方がシンプルでわかりやすく、略語が上手だと思います)
そして、この第4章の横軸にある、5Aについて、第5章以降にわたって掘り下げています。縦軸の3Eについては、むずびで少し触れられているのみでした。
5章~7章: マーケティングの新しいフレームワーク
カスタマージャーニーとして、5Aの詳細に関する説明、生産性の指標などが説明されます。
5Aに至る変遷
AIDA(Attention 注目、Interest 興味、Desire 訴求、Action 行動)から、4A(Awareness 認知、Attitude 態度、Act 行動、Act again 再行動)、4Aから5Aへと展開していきます。
私の理解も交じっていますが、以下のイメージのようにまとめました。
5Aの各段階
5A(Aware 認知、Appeal 訴求、Ask 調査、Act 行動、Advocate 推奨)の各段階については、下記の図にまとめられます。
ブランドや製品をただ知っているだけの「Aware」の状態にある顧客が、
企業からの訴求「Appeal」により、そのブランドや製品が好きになる。
少数のブランドや製品を比較し、レビューを検索し、アドバイスを受けるといった「Ask」、調査をすることで、あるブランドや製品について、よいと確信している状態となり、
実際に「Act」、行動に移し購入する。
そして、「Advocate」。ブランドと製品に満足し、再購入や他者へ推奨する。
以上のように、AwareからAdvocateまでの5段階を、コトラー教授は整理しています。
この表をまとめてみて、以下2点が気になりました。皆さんはいかがでしょうか。
- Appealの感想は、「大好きだ」というよりは、その製品/ブランドって「良いよね!」「イイネ!」といったニュアンスだと感じます。「大好きだ」という感想を持つ場合、それは「Ask」や「Act」の段階に近いのでは…?と思います。英語版では「I like」のようですので、FacebookやInstagramのイイネ!と同じニュアンスであり、「大好きだ」という訳では個人的には少し違和感があります)
- 「Appeal」の段階のみ、主語は顧客ではなく、企業なのではと思いました。顧客がAppealする、という状況がよくわからず。
マーケティングの生産性の指標 PARとBAR
PARは購買行動率Purchase Action Ratio、BARはブランド推奨率Brand Advocacy Ratioです。
PARは、企業が自社を認知している人々を購買行動に「コンバート」することにどれくらい成功しているかを測定するものです。PAR=Actの人数÷Awareの人数で表されます。
BARは、企業が自社を認知している人々を忠実な推奨者に「コンバート」することにどれくらい成功しているかを測定するものです。BAR=Advocateの人数÷Awareの人数で表されます。BARの式を変形すると、以下の図のように表すことができます。
このように、数式BAR=Advocateの人数÷Awareの人数を変形し、5Aの要素を全て含む形にすることができます。
そして、書籍の第8章から第11章にかけて、それぞれのマーケティング手法について、ロイヤリティの観点を交えつつ、一つずつ解説しています。
カスタマー・ジャーニー全体のO(オー)ゾーン
また、書籍ではO3(オゾンの化学式)のように表記しているOゾーンについても説明されています。顧客が影響を受けるものを、Own 自身、Others 他者、Outer 外的 の3つのO(オー)に分類し、どのような前後関係があるのかを以下のような図で表現しています。
Aware 認知から始まり、外的な影響を受けAppeal 訴求→Ask 調査の段階となることもあれば、他者の影響を受け、Appeal 訴求を飛ばし、Ask 調査の段階となることもあります。(この図で5Aの関係を理解すると、Appeal 訴求は外的な影響のループのため、主語は顧客ではなく「企業」なのではと感じます)
そして、Ask 調査からAct 行動へ移り、Advocate 推奨の段階へと移っていきます。Advocate 推奨の段階となった顧客は、再度同じブランドを購入することもあるため、Advocate 推奨とAct 行動のループに入っていきます。
この前後関係を意識しつつ、次の第8章~第11章でマーケティング手法が深堀りしていくと理解が深まるのではと思います。
第8章~第11章: デジタル経済におけるマーケティングの戦術的応用
第7章まででマーケティング4.0における基礎的な考え方、フレームワークを知ることができました。ここからはマーケティングの戦術的応用について、具体例も交えながら説明がされています。
詳細についてはこのブログで説明することは控えますので、ぜひ書籍マーケティング4.0を手に取り、実際に読んでみてください。理解がぐっと深まると思います。
以下に章構成とキーワードだけ箇条書きしていきます。書籍では、それぞれについての主張、解説がされています。
8章:ブランドの誘引力を高める人間中心のマーケティング
デジタル人類学を使用した3つの手法
- ソーシャルリスニング
- ネトノグラフィー
- 共感的リサーチ
人間中心のブランドの6つの特性
- 身体的魅力
- 知性
- 社交性
- 感情性
- パーソナビリティ(人間力)
- 道徳性
9章:ブランドへの好奇心をかき立てるコンテンツマーケティング
コンテンツマーケティングの8つの段階
- 目標設定
- オーディエンスマッピング
- コンテンツ構想とプランニング
- コンテンツ制作
- 配信
- 拡散
- コンテンツマーケティングへの評価
- コンテンツマーケティングへの改善
10章:ブランドコミットメントを生み出すオムニチャネルマーケティング
- モバイルコマース
- ウェブルーミング
- ショールーミング
11章:ブランド・アフィニティ(親近感)を築くためのエンゲージメントマーケティング
- モバイルアプリでデジタル経験を高める
- ソーシャルCRMアプリケーションでソリューションを提供する
- ゲーミフィケーションを利用する
むすび:「ワオ!」を生み出すブランドになろう
最後に、「ワオ!」について。
書籍では、ワオ!とは、顧客が言葉にできないほどの喜びを経験しているときに発せられる表現であり、3つの特性「予期せぬ驚き」「個人的なもの」「伝染力がある」がワオ!の構成要素だとし、これらのワオ!の特性が、ブランドを競争相手と差別化する要素だとしています。そして、戦略をデザインし、インフラとプロセスを組み立て、スタッフを教育して、5Aの最初から最後までワオ!を提供することが可能となると主張しています。
そして、企業の視点から顧客の視点へと移すと、企業やブランドが与えてくれるものには3つのレベル、「喜び」「経験」「エンゲージメント」があります。
- 企業は顧客のニーズとウォンツを満たす製品・サービスを提供し、顧客に「喜び」を提供する。
- 製品・サービスに加えて魅力的な「経験」も提供する。店頭での経験とデジタル世界での経験で、顧客とのインタラクションを向上させる。
- 企業と顧客とが個人的な「エンゲージメント」を築き、顧客に自己実現の手段を与え、人生を変えるようなパーソナリゼーションをデザインする。
企業は顧客を5AのAware認知からAdvocate推奨へと建設的に導き、顧客とのインタラクションにおいて、喜び、経験、エンゲージメントを高めていくことが、マーケティング4.0の目標であり、重要な点だと締めくくっています。
まとめ
書籍、コトラーのマーケティング4.0についての全体像、概要、ポイントを解説しました。本を読む前は分厚い専門書で理解が難しそうだと思っていましたが、読み進めてみると、章立てはわかりやすく、コトラー教授の主張も明確でした。
ぜひ皆さんも、本を手に取って読んでみてください。全体像と概要が頭に入っていると思いますので、読み進めるのも早いと思います!
最後のむすびでは、突然、「ワオ!」という言葉が出てくるので少し戸惑ってしまいましたが、「ワオ!」と顧客に言わせるような感動体験を作り出すことがビジネスマンとして重要ですね。
記事の最後に、4章で掲示された図(コトラーのマーケティング4.0のポイント!)を再掲して、本記事を締めくくります。
長文お読みいただきありがとうございました!